環境

ゼロ・エミッションとは?概要や目的、事例を簡単に解説

廃棄物を削減する取り組みとして注目されている「ゼロ・エミッション」をご存じでしょうか。ゼロ・エミッションとは、人間の暮らしや経済活動から排出される廃棄物を、可能な限りゼロにするための試みです。世界銀行の報告書では、2050 年までに世界で排出される廃棄物は年間 34 億トンと予想されています。このまま対策を講じなければ、地球は廃棄物まみれになってしまうかもしれません。持続可能な社会を次世代に残すためにもゼロ・エミッションへの取り組みは重要です。

この記事では、ゼロ・エミッションの解説を簡単に行い、企業や自治体の事例をご紹介します。

ゼロ・エミッションとは

ゼロ・エミッションは1994年に国連大学(UNU)が提唱した考え方です。ゼロ・エミッションは、英語で「zero emission」であり、エミッションとは「排出」という意味になります。

産業活動をはじめとした人間の経済活動から発生する廃棄物等の排出を、可能な限り無くす(ゼロ)取り組みのことです。ただ廃棄物の排出をゼロにするのではなく、「廃棄物に付加価値を見いだして利用し尽くす」ことが、ゼロ・エミッションの理念です。

そのためには、業界全体で循環型経済(サーキュラーエコノミー)構築を目指す必要があります。サプライチェーンの見直しをかけ、廃棄物を再利用したり有効活用したりすることで、廃棄物を減らさなくてはいけません。

具体的に解説すると、企業Aから排出される廃棄物を企業Bが資源として再利用し、企業Bが利用しきれず排出した廃棄物を企業Cが再利用する、というように、業界全体で資源を循環させる努力を行うことです。これにより資源を最大限有効に活用し、廃棄物の量を最小化することを目指します。

ゼロ・エミッションの歴史

ゼロ・エミッションが唱えられるようになった背景には、世界の環境悪化への懸念が挙げられます。経済が発展するにつれ大量生産・大量消費が促進され、その結果、大量の廃棄物が海や陸を汚染し自然を破壊しています。

さらに、近年の温室効果ガス排出による地球温暖化の問題も大きいでしょう。産業廃棄物の処理には大量のエネルギーを必要とし、多大なCO2が発生します。国内の2018年度の廃棄物分野における温室効果ガス排出量は3,782万トンにも及びました。このまま温室効果ガス発生が抑制されずにいると地球温暖化は加速し、2050年までには気温が平均2℃上昇すると言われています。このようなさまざまな環境問題の解決策として、ゼロ・エミッションへの関心が高まっていったのです。

以下にどのような取り組みがゼロ・エミッション活動へとつながっていったのか、歴史順にまとめましたので参考にご覧ください。

【世界のゼロ・エミッション活動へとつながる動向】

  • 1992年 国連持続可能な開発会議(リオ+20

国連地球サミットで、環境の保全と持続可能な経済発展を両立するための行動計画を定めました。

  • 1997年 京都議定書

温室効果ガス発生を2008年から2012年の間に、1990年比で約5%削減することを定めました。

  • 2000年 ミレニアム開発目標(MDGs

途上国の貧困や環境問題等を改善するために、ニューヨーク開催の「国連ミレニアム・サミット」で採択され、SDGsへとつながった目標です。

  • 2015年 2030アジェンダ(SDGs

持続可能な社会を構築するための17の目標と169のターゲットから構成されており、2030年までの実現を目指しています。

  • 2015パリ協定

世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、2℃以下に抑え、更にできる限り1.5℃未満に抑える努力を追求することを目的としています。

これらの動向から見えるのは、地球環境をこれ以上悪化させることなく持続可能な社会を構築しなくてはならない、という人々の意識の変革です。地球に負荷をかける経済活動ではなく、環境を守り廃棄物を生み出さない循環型の経済活動に切り替える必要があります。

【国内のゼロ・エミッション活動へとつながる動向】

日本国内でもこれまで様々なゼロ・エミッション活動が行われてきました。年代別の動向をまとめました。

  • 1997年 エコタウン事業

政府により「ゼロ・エミッション構想」を基本として、地域の循環型経済形成ならびに地域振興の推進を図るために制定されました。

  • 2000年 ゼロエミッションフォーラム創設

国連のシンクタンクとして活動するUNU本部により、産業界、官界、学界の協力関係を得て開設されました。

  • 2019年 ゼロ・エミッション東京戦略

東京都は2050年にCO2排出を実質ゼロにする「ゼロ・エミッション東京」を宣言しました。気候変動を抑止するための「緩和策」や温暖化の影響に備える「適応策」などの戦略を展開し、都の特性を踏まえた取り組みを開始しています。

  • 2020年 ゼロエミ・チャレンジ

経済産業省は、革新的イノベーションによる企業の積極的なゼロ・エミッションを促進するために「ゼロエミ・チャレンジ企業」をリスト化し公表しました。

  • 2023年3月 アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)閣僚会合

ベトナム、マレーシア、タイなどのアジア諸国との閣僚会合が開催され、①「脱炭素」と「エネルギー安全保障」との両立を図ること、②「経済成長」を実現しながら、「脱炭素」を進めること、③カーボンニュートラルに向けた道筋は、各国の実情に応じた「多様かつ現実的」なものであるべきこと、という3つの共通認識を含む共同声明が合意されました。

参考:経済産業省 アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)閣僚会合及びAZEC官民投資フォーラムを開催しました
   東京都環境局 ゼ ロ エ ミ ッ シ ョ ン 東 京 戦 略 の 概 要
   経済産業省 ゼロエミ・チャレンジ企業リストについて

ゼロ・エミッションの企業の取り組み事例

ここからは企業のゼロ・エミッションへの実際の取り組みをご紹介していきます。

企業事例①【株式会社JERA】

株式会社JERAは「JERAゼロ・エミッション2050」に取り組み、国内発電事業のCO2排出量を、2035年までに2013年度と比較して60%以上の削減を目指しています。具体的なアプローチとして、「①再生可能エネルギーとゼロ・エミッション火力の相互補完」、「②国・地域に最適なロードマップの策定」、「スマート・トランジションの採用」を掲げています。

アンモニア・水素発電の導入を計画し、2023年に碧南火力4号機においてアンモニアの混焼率20%での実証試験を開始。さらに水素に関しては、国内LNG火力発電所において2025年度に体積比で30%の水素を利用する計画です。

参考: JERAゼロエミッション2050への挑戦

企業事例②【日産自動車株式会社】

自動車のリサイクル活動などを実施してきた日産自動車は、環境行動計画「ニッサン・グリーンプログラム(NGP)」を打ち立て、さまざまなゼロ・エミッションに取り組んでいます。天然資源の使用量を2010年同レベルに保ち、2050年までに「新規資源への依存を70%削減する」というビジョンを掲げています。新車においては重量ベースで、30%の材料を新規採掘資源に依存しないことが目標です。

さらに工場からの廃棄物は本来発生する量に対して、国内では2%、海外では1%削減を目標とし、最終的に新規採掘資源依存ゼロにすることを掲げています。

参考:日産自動車株式会社

企業事例③【住友金属鉱山株式会社】

「ものづくり力」を基本とした430年以上の歴史を持つ「住友金属鉱山グループ」は、これまでのノウハウを活かし、未利用資源の有用化やリサイクル技術の活用の技術開発に取り組んでいます。具体例として、未利用資源であるニッケル低品位鉱石の活用や鉱山や製錬工程で発生する不純物を分離や固定、有用化する技術。さらには、EVに搭載される二次電池のリサイクル技術の実証と事業化が挙げられます。二次電池リサイクルにおいては、2024年度までにプレ商業プラントの試運転と操業開始を目指しています。

また、CO2排出量削減に関しての取り組みも促進しており、2021年度のCO2排出量は264万7,000トンで、2013年度比で約1%の削減を実施しました。

参考:住友金属鉱山株式会社 

ゼロ・エミッションの自治体の取り組み事例

自治体によるゼロ・エミッションへの取り組みも非常に重要です。実例をご紹介します。

自治体事例①【北海道 上士幌町】

北海道上士幌町は、2050年までに二酸化炭素排出量の実質ゼロを目指す「北海道上士幌町ゼロカーボンシティ宣言」を打ち出しました。持続可能な街づくりを目指して、ゼロカーボンの実現とスマートシティ構想を計画しています。また、2022年4月には環境省の「第1回脱炭素先行地域」に選定されました。

地域の酪農業の利を活かし、家畜のふん尿から発生するメタンガスを利用してバイオガス発電を開始。再生可能エネルギーである太陽光発電を、公共施設活用する形で供給し脱炭素化を促進しています。さらには公用車にEVやPHEVを利用することで、運輸部門等の脱炭素化にも乗り出しています。

参考:環境省 第1回 脱炭素先行地域の概要
   上士幌町 上士幌町役場ゼロカーボン推進課

自治体事例②【神奈川県 みなとみらい21】

神奈川県の「みなとみらい21」は、官民が連携して実現を目指す大都市脱炭素化モデル地区です。みなとみらい21にある32施設に対して未使用のスペースを活用し、オフサイトPPAによる太陽光発電設備の導入、さらにゴミや風力を活用した発電など、再生可能エネルギー導入を実施しています。

また、食品の食べ残しやペットボトル廃棄削減のために、たい肥化やリサイクルなど資源の有効活用も促進。海の水質浄化や生物の生息環境保護などの取り組みも実施しており、省エネ対策やインフラ整備、環境にやさしい交通ネットワークなど、多角的な活動が注目されています。

自治体事例③【大阪府】

大阪府は2005年度にエコタウンのモデル事業として承認を受け、ゼロ・エミッションに取り組んでいます。全国的にみても大阪府は廃棄物の発生が多い地区でした。リサイクル率も非常に低く、産業廃棄物などの不適切処理が後を絶ちませんでした。

そのため大阪エコエリア構想では、事業計画を「先導的に整備すべきリサイクル施設」に選定し、新システムを導入したリサイクル施設の設置推進を行いました。その結果、中小企業から排出される有害な廃棄物の適正処理やリサイクル化が進み、大阪府廃棄物処理計画の目標(最終処分量半減)達成に大きく貢献したのです。

参考:大阪府 大阪府エコタウンプランの概要

まとめ

循環型経済のポイントとなるゼロ・エミッションについて、具体的な事例を含めて解説しました。地球資源は無限ではなく、大量生産・大量消費による廃棄物の増加はもはや許されない時代を迎えています。

ゼロ・エミッションを達成することは容易ではありませんが、持続可能な社会構築には欠かすことのできない取り組みです。まさに企業が積極的に取り組むべき、マテリアリティと言えるでしょう。

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